2歳馬のデビュー、新馬戦を見るのは楽しい。これからどんな個性の馬になるのだろう。その血統やデビュー前の調教の情報が伝えられて、1番人気、2番人気に推された馬が、順当に勝ち、その後も2歳重賞や3歳のクラシック戦線で活躍するとは限らない。
ところが近年の競馬は、特定の大牧場で生まれ、特定の血統が評価され、セリで高額で落札され、特定の厩舎に預託されると、デビュー新馬戦の人気も、順当な勝利もほぼ予想されて、またその通りの結果になることが多い。つまり意外性が少なくなった。
昔は、血統もさほど注目されず、デビュー前から特に評判にもならず、デビュー戦で見る馬体も際だって目立つこともなく、ほとんど評価に上らなかった馬が、もの凄いレースを見せて、そのままクラシック戦線の主役になる場合がある。そういう馬を探す楽しみがあった。
カブラヤオーがそうだった。デビューはダートの1200メートル戦で、厩舎の若い菅野澄男騎手が手綱を取り、7番人気だった。1番人気は血統も調教の動きも抜けていたダイヤモンドアイだったが、カブラヤオーは最後方から一気に差を詰め、ダイヤモンドアイの鼻差の2着となった。その後のレースは他馬には影も踏ませず、8連勝でダービー馬となった。
今年の夏の小倉競馬で、牝馬のオウケンダイヤは史上最軽量の馬体重で、最低人気ながら後方から素晴らしい追い込みを見せ、鮮やかに新馬戦を飾った。彼女の父は二流の成績ながら馬主の強い意向で種牡馬となった馬に過ぎず、彼女以外の産駒がなかった。そんな話題でオウケンダイヤは人気者になった。しかしその後は、レースでの人気は低く、しかも惨敗続きである。
それにしても、西村真幸調教師はこの小さなオウケンダイヤを使い過ぎであろう。380キロ台の馬を連闘も含め、5戦も出走させた。オウケンダイヤは小さいため仕上がりやすく、健康で回復力が早いのかも知れないが、それにしても使い過ぎだ。調教師として見識がないのか、彼女を短距離馬と見ていて、距離の短いレースが多い2歳戦で使い切って、早々に繁殖に上げようと考えているのだろうか。あるいは潰そうという意図でもあるのか。…オウケンダイヤは上がり34秒台をコンスタントに繰り出せる馬だ。成長を待ちながらじっくりと使い、3歳春以降400キロ台に成長すれば面白いと思っていた。あのトウメイのように…。
小倉2歳Sを強い勝ち方をしたシュウジは新種牡馬キンシャサノキセキ産駒である。3戦3勝だが、その血統から典型的なマイラーで早熟型と知れる。
古馬となってもマイル戦では強いだろう。
菊花賞の日に、これまで数多くの重賞勝ち馬を輩出している「伝説の新馬戦」がある。今年は武豊騎乗のドレッドノータスが勝った。ノーザンファーム生産のハービンジャー産駒で、母の父はサンデーサイレンス、母も半姉も重賞3勝している良血馬である。ハービンジャー産駒はジリ脚の馬が多く、おそらく秋以降から古馬になって活躍しそうな血統なのではないか。馬主は社台王朝系のクラブ法人キャロットファームである。
マイネルラフレシアは楽しみな馬だが、牡馬としては小柄だ。ジャングルポケット産駒で、母の父はダンスインザダーク。柴田大知騎手で2戦2勝した。なかなか身のこなしが素軽い。このまま無事に進み、ディープインパクトとキングカメハメハ産駒が全盛の中に、割って入ってほしい。3歳になればもう一回り大きくなるに違いない。
堀宣行厩舎のアメリカ産馬ストロングバローズは、A.P.インディ産駒で、520キロの大型馬である。デビュー戦はダートで楽勝した。いかにもダートに強い力馬である。さて芝ではどうだろうか。
堀宣行厩舎のもう一頭、社台白老ファーム生産のウムブルフはディープインパクト産駒である。ルメール騎手を鞍上に新馬戦芝2000でデビューした。1番人気である。好位置を進み、直線良く伸びたものの、先頭を行くノーザンファーム生産の大型牝馬クイーンズベストをかわせなかった。クイーンズベストはワークフォース産駒で、母の父はフジキセキである。このデビュー新馬戦は岩田康誠騎手で2番人気に推されていた。距離は2000メートルが限界だろう。どちらもクラシック候補といえる。
プランスシャルマンは社台牧場生産で、父ジャングルポケット、母の父サンデーサイレンスという血統。気性が難しそうだが、クラシック向きであろう。4戦2勝2着2回。これまで北村、岩田、デムーロと、ころころと騎手が乗り替わる。これも騎手エージェントたちが騎乗馬の回し合いをする近年の傾向か、あるいは調教師や馬主の意向の反映なのだろうか。
デビューから2戦2勝のプロディガルサンは、ノーザンファーム生産で、ディープインバクト産駒。セリで1億9千万円の高額馬である。馬体は均整がとれているが、どちらかというとマイラー型ではあるまいか。母の父はストームキャットで力馬タイプだろう。距離は2000メートルまでが適距離で2400メートルはギリギリではないか。この馬の2着に敗れたプランスシャルマンの方が2400メートル向きだろう。
ケルフロイデはノーザンファーム生産で、力のありそうなマイラータイプであろう。デムーロ騎手でデビュー戦を勝ち、次の特別戦は石橋脩騎手で勝利し2戦2勝。さすがキングカメハメハ産駒である。クラシックは皐月賞までは楽しめるだろう。
スマートオーディンはあまり耳馴染みのないスカイビーチステーブルの生産馬である。フジキセキの子ダノンシャンティ産駒だ。つまり早熟型のマイラーで、スピードで押し切るタイプだろう。マイル戦なら活躍しそうだが、クラシックは難しいのではないか。デムーロ騎乗でデビュー戦に勝利、2戦目は2着だった。
堀宣行厩舎のルフォールはなかなか楽しみな馬である。社台コーポレーション白老ファーム生産で、例の父キングカメハメハ、母の父サンデーサイレンスという絵に描いたような血統である。上がりタイムもなかなか素晴らしい。2400メートルの距離も十分保ちそうである。
池江泰寿厩舎のレヴィンインパクトもクラシック候補だろう。社台系の追分ファームの生産で、父ディープインパクト譲りの素晴らしい末脚だ。母の父はヌレイエフ。馬体も大き過ぎず小さ過ぎず、ちょうどいい。デビュー戦は岩田康誠騎手で2着、次はルメール騎手で勝利。2戦1勝。
ブラックプラチナムもデビュー戦を楽勝したクラシック候補である。ノーザンファーム生産で、父ステイゴールドも魅力の血統だ。母クーデグレイスもそれなりの重賞活躍馬だった。なかなか根性がありそうである。私見だがレース中やや首が高いように思える。
チャパラルバードも堀宣行厩舎である。フランス生まれで、ヨーロッパで強さを見せつけたサドラーズウェルズ系のハイシャパラル産駒だ。果たして日本の馬場に適合するかどうか。母も名牝とのことである。デビュー戦はルメール騎手で2着だった。血統的には3歳以降に持続的に成長するに違いない。サンデーサイレンス系やキングカメハメハ産駒に替わる大物になってほしい注目の一頭である。
シンコーファーム生産のブgxxxレイクマイハートもディープインパクト産駒である。父に似てあまり馬格の大きい馬ではない。松岡正海騎乗で臨んだデビュー戦はルフォールの2着に敗れたが、ゴール前、馬群を割ってよく伸びた。なかなか根性はありそうで、重賞戦線でそこそこの活躍をするのではないか。母系はレッドゴッド系である。
ディーマジェスティは服部牧場生産のディープインパクト産駒である。ルメール騎手でデビュー戦2着、続く未勝利戦は蝦名正義騎手で2着。おそらくじっくりと成長する中長距離向きの馬で、母の父はブライアンズタイム、さらに母系にはサドラーズウェルズの血が入る重厚な底力血統である。軽快さを父のディープから受け継いだクラシック向きの馬だろう。
牝馬のクラウニングフレアは片山牧場生産。デビュー戦であっという間にブラックプラチナムに突き放されたが2着に粘った。ハービンジャー産駒だが、母の父は懐かしいタヤスツヨシである。サンデーサイレンス産駒最初のダービー馬だった。中・長距離、そしてダート向きであろうか。
セレンディップは前野牧場生産で、500キロを超える大きな牝馬である。田辺裕信騎手で臨んだデビュー戦はルフォールの7着に終わった。この馬なりに頑張ったのだろうが切れ味が違う。父はサンデーサイレンス系のダイワメジャー、母の父オペラハウスは、何ともバランスの悪そうな配合に思える。距離は2000メートル前後、ダートでも芝でも、それなりに活躍はしそうだ。
ボールライトニングは今や希少価値の栃木県産馬である。蝦名正義騎乗で京成杯を勝ち2戦2勝。父ダイワメジャー、母の父はこれも珍しいデヒアである(アメリカ産で9戦6勝)。ヴァイスリージェント系、デピュティミニスター系の種牡馬だ。2000メートルくらいが適距離だとおもうが、なかなか勝負根性のあるしぶとそうな馬である。
キャンディバローズは富田牧場生産の小柄な牝馬である。ディープインパクト産駒、母の父タイキシャトルで、なかなか勝負根性がありそうだ。距離は1マイル。デビューからルメール騎手が乗り、3戦2勝。桜花賞までは有力馬の一頭だろう。
メイショウスイヅキはファンタジーSで2番人気になったが終始馬群の中にいて6着に敗れた。これで4戦2勝。馬主の松本好雄氏は自ら中小の牧場を回り、これといった馬を見出す人だという。三嶋牧場生産、父はマイラーのパイロ、母の父はダンスインザダークだから成長力はありそうである。上がり33秒台の良い脚を持っており、楽しみな一頭かも知れない。
ワントゥワンは社台牧場生産の小柄な牝馬で、ディープインパクト産駒である。末脚の切れ味が素晴らしい。多少距離が伸びても大丈夫だろう。ファンタジーSに挑戦したが4着に敗れ2戦1勝。
ブランボヌールはノースヒルズ生産の牝馬で、ディープインパクト産駒。母の父はサクラバクシンオーだからマイルのスピード系である。桜花賞までは有力候補だろう。母の父がサクラバクシンオーでもキタサンブラックの例もあるが、あれは例外で母系に入ったリファールの先祖返りだろう。
シルバーステートはノーザンファーム生産のディープインパクト産駒である。福永祐一騎乗で3戦2勝だ。紫菊賞のときの末脚が凄かった。案の定、脚部不安で休養に入った。あの凄い脚はこの馬の命取りになるのではないか。
2億3千万円のサトノダイヤモンドと2億4千万円のロイカバードの対決は馬場状態の影響でスローの展開。サトノダイヤモンドは2番手にいて先に動いた分、ロイカバードに勝った。どちらもノーザンファーム生産でディープインパクト産駒。サトノは池江泰寿厩舎、ロイカは松永幹夫厩舎である。
ざっと有力視される2歳新馬たちを眺めても、ディープインパクトとキングカメハメハ産駒ばかりが目立つ。種牡馬ランキングでもこの2頭が抜きん出て、それ以外のトップ10で入り種牡馬はサンデーサイレンス系が6、7頭を占める。それにしても偏り過ぎで血の多様性がない。日本の馬産界はこのままでいいのだろうか?
昔もヒンドスタン時代、ネヴァービート人気、パーソロンとテスコボーイ時代と続々その同系が輸入されたが、しかし活躍馬の血統は今よりずっと多種多様だった。活躍馬を輩出する牧場も多様で、小牧場からもずいぶん活躍馬が出た。例えば先日のゴールドアクターを生産した北勝ファームのような。北勝ファームもお父さんとお母さんの二人だけで、10頭の繁殖牝馬の世話をするような小さな牧場なのである。「優駿」の牧場訪問も変化があって楽しかった。
サンデーサイレンスは世界でも屈指の大種牡馬だったに違いない。その後継種牡馬は数多いるが、おそらくディープインパクトは父を凌ぐ種牡馬だろう。いまディープインパクトは年間250頭に種付けするという。受胎率からいっても150頭の産駒が出る。キングカメハメハも同様らしい。彼等の産駒には屑馬がいない。サンデーサイレンスも屑馬が出なかった。確かに凄いのだが、日本の競馬から血統の多様性が失われたのも事実だろう。
それにしても、まさに工場でのマスプロ体制ではないか。獣医学の発達もあろうけれど…。